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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)442号 判決

原告 宋永敬

被告 小佐々忠夫

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を明渡せ

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一申立事項

一  原告

主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二主張事実

一  請求原因

1  別紙物件目録の前段に表示した建物(以下「本件建物」という)はかつて被告が所有していたものであるが、昭和五四年三月一三日、被告は、これを訴外神林義忠(以下「神林」と略称する)に譲渡した。

2  ところで、神林は、昭和五四年三月一五日、本件建物につき、訴外日本信販株式会社(以下「日本信販」と略称する)のため抵当権を設定していたところ、その後に日本信販が右抵当権を実行したことにより、昭和五七年六月一〇日、原告が本件建物を競落し代金を納付して所有(なお、所有権移転登記は同年一一月二五日に経由)するに至つた。  3 被告は、現在、本件建物のうちの別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という)を占有している。

4  よつて、原告は、本件建物の所有権に基づき、被告に対して本件建物部分の明渡しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はいずれも認める。

三  抗弁

1  被告は、原告主張のとおり、自己の所有していた本件建物を神林に譲渡したが、その譲渡は譲渡担保契約に基づくものであつて、被告は、昭和五四年三月頃、神林から、金一八〇〇万円を利息年一八パーセントの約束で借り受け、神林に対し、右の債務の支払を担保するため、本件建物を譲渡したのである。

2  被告は、右譲渡担保契約を締結するに際し、神林から、本件建物を賃料一か年一八〇万円の約定で期限を定めず賃借し、昭和五四年三月一三日以降、右賃借権に基づき、当該建物のうちの本件建物部分を占有しているものである。

3  ところが、神林は、被告が右賃借権に基づく占有を始めた後の昭和五四年三月一五日、本件建物につき日本信販に対して抵当権を設定し、原告は、右抵当権の実行によつて本件建物を競落したにすぎないのである。

4  従つて、被告が原告に対し、本件建物部分を明け渡すべき義務はない。

四  抗弁に対する認否

被告が本件建物(部分)について原告に対抗しうる占有権原がある旨の主張は争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

そこで、被告主張の抗弁の当否について検討すると、抗弁1ないし3の事実を仮に肯認し、当該事実を前提に考えても、被告が原告に対し、本件建物部分の明渡しを拒みうる(原告に対抗しうる)占有権者を有しているとは解されない。即ち、譲渡担保契約の締結に際し、目的物の占有(利用)を設定者の許に留める型のそれにあつては、その利用関係を担保権者に対して正当化ならしめるため、賃貸借契約等が併せて締結されるのが通例である(被告主張の賃貸借契約もこれに該ると解される)が、右の目的物の利用関係は、本質から、譲渡担保契約関係が存続する限りにおいて成立することを予定されているものであつて、設定者が目的物を受け戻した後にも、反対に、担保権者が担保権を実行した後にも、右の利用関係は終了する運命にある。そして、後者において、担保権者が仮に設定者との定めに反して担保権を実行したときも、そのことが担保権者の債務不履行責任を生ずることは格別、右の利用関係は終了するのであつて、その実行により目的物を取得した第三者に対して設定者が担保権者との間で定められた目的物の利用関係を主張することは許されないと解さなければならない。

本件においては、原告が本件建物の所有権を取得したのは、神林が原告に譲渡担保権実行のための処分をしたがためではなく、神林が抵当権を設定し、その抵当権の実行によつて原告が競落したがためであるが、神林の抵当権の設定が被告との譲渡担保契約において許されているのであれば当然、そうでないとしても、その設定が神林の被告に対する債務不履行責任を生ずるとしても、なお本来の譲渡担保権の実行があつたときと同様に、設定者と担保権者との間で定められた目的物の利用のための契約関係は消滅すると解すべきであるから、結局のところ、被告が神林との間の譲渡担保契約に伴う賃借権を理由に原告に対して本件建物部分の明渡しを拒む余地はなく、被務の主張(見解)は失当である。

以上の次第で、原告の本件請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 滝沢孝臣)

別紙物件目録〈省略〉

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